天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「ここは…?」

突然視界が真っ黒になったと思ったら、九鬼は闇の中にいた。

何もない空間に立ち尽くす九鬼の前に、タキシードの男が立っていた。

タキシードの男は跪くと、

「時は満ちました。どれ程の意味のない時を過ごしたことか…」

九鬼に顔を向け、

「やっと…この時を迎えたのでございます」

懐から何かを取り出した。

それは、黒の乙女ケース。

いや、黒より黒い。


「さあ!これを手に取るのです!その時、闇の女神は完全に復活される!」


「どういう意味だ!」

興奮気味のタキシードの男に、九鬼は詰め寄った。

訝しげな表情を浮かべる九鬼に、タキシードの男は目を見開いた。

「そ、そうでしたね。今のあなた様の体には、人格があるのでしたね」

タキシードの男は、自らを納得させると、

「ご心配には及びません。これを受け入れれば…あなたはすべてを思いだします。もう神話の時代と言われる昔でも、鮮明に!」

タキシードの男は、乙女ケースを示し、

「さあ、早く!手に取るのです」

九鬼に差し出した。

しかし、九鬼が手に取ることはない。


「仕方がありません」

タキシードの男は頭を垂れると、乙女ケースを差し出したまま、

「あなたの頭の中に、直接話しかけましょう」


そう言って、頭を上げていく過程で、タキシードの男の姿が変わっていく。

「あなたが、何者であるか…あなた自身に、語って頂きましょう」

完全に顔を上げた時、タキシードの男の姿は変わっていた。


「な!」

九鬼は絶句した。

なぜならば、そこに…もう1人の自分がいたからだ。

「今は…九鬼真弓と呼ばれるあなたの真の名は、デスペラード。闇の女神デスペラードよ」

九鬼の頭の中に、直接声が届いた。

その声は、自分の声。


「教えてあげる。なぜ…こうなったのか。あなた自身の真実を」
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