天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
無表情で、自動ドアから飛び出すと、西園寺は足を止めた。

気分が、すぐれなかった。

(こんなことでは、支持を得られない)

西園寺は、心の中で唾を吐いていた。

「どうしたんだい?そんなしけた顔をして」

ドアの前を、左右に伸びる通路の向こうから、クラークと守口舞子が現れた。

クラークは、満面の笑顔を浮かべながら、西園寺に近づいてきた。

「別に、何でもありません」

凛とした物腰しで、一瞬にして感情を殺すと…いつもの無表情な西園寺に変わる。


クラークは、心の中で感心しながらも、笑顔のまま、西園寺の前に立った。

「君の言いたいことは、わかるよ。だけどね」

クラークは、西園寺の耳元で囁いた。

「あれは、あれで必要なんだよ」

西園寺の無表情な顔の…眉だけが、少し動いた。

クラークは笑いの底で、さらににやりと笑った。

「君達が、前に出るためにはね」

そう言うと、クラークは後ろで控える舞子に目をやった。

舞子もまた、無表情だ。

そんな二人を確認すると、クラークは西園寺の肩に、手を置いた。

「まあ、少しは力を抜いて」

別れ際、西園寺にウィンクすると、クラークはブリッジ内へ入っていった。


(何だ…?)

扉の向こうに消えていくクラークの後ろ姿を、扉が閉まるまで見送った西園寺は、

背中から視線を感じ、振り返ると…舞子がじっと見ていた。

だけど、舞子はすぐに歩きだし、西園寺の横を通ると、ブリッジ内に入った。

「だから!」

小声でイラつくと、西園寺は学生服の上着のポケットに入れてあるブラックカードに触れた。

心が落ち着いた。

ブラックカードは、安定剤のような効力もあった。

(苛立つな)

西園寺は、廊下を歩きだした。宇宙にあるのに、本部の重力は安定していた。


ふっと足を止め、眼下に浮かぶ地球を眺めた。

(やはり…こんな天上にいても、仕方がない)

支配すべきは、生きた人々なのだ。

西園寺は、地上に戻ることを決めた。


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