ノラ猫
 
生まれつき、肺が弱い綾香。
手術をすれば治るということ。

だけどその手術は、100%成功するものではなく、危険性も伴っている。


「怖い、よっ……。
 手術して治したいけど……もし手術が成功しなかったら……」


肩を小刻みに震わせ、瞼には涙を溜めている。


怖くないわけない。
誰だって、100%じゃないものは怖いに決まっている。


小さく震える綾香を、俺はそっと抱き寄せた。


「大丈夫。手術は絶対に成功するから」

「……っ」


小さい子供をあやすように……
優しく華奢な体を守るように……。


「手術をして、健康な体になったら……
 思いっきり遊びに行こうな」

「智紀……」


微笑んで、不安をかき消すように楽しいことを話した。


綾香の震えもようやく収まって、俺の顔をじっと見上げてる。


「智紀が一緒に遊びに行ってくれる?」
「……ああ」


なぜか一瞬の間を空けてしまった。
頭の中に、凛の存在が浮かんでしまったから。

こんな約束、果たしてしていいんだろうか……。



その時、
屋上の扉が開く音がした。
 
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