ノラ猫
4章 過去
 
「さて、帰るか」
「え?」


そう言って、差し出してきた手。
どうしたらいいのか分からず、ただ智紀の手と顔を交互に見やった。


「何やってんだよ。さっさと繋げ。
 俺がバカみてぇだろ」

「あ……」


一向に手を重ねてこないあたしに、智紀は自らあたしの手を掴んだ。

いつだかの手首を掴むのではなく、手のひらをしっかりと……。


「帰るって……」
「俺んちに決まってんだろ。それ以外、どこがあんだよ」
「で、も……」
「凛」


それでもうろたえるあたしに、智紀はもう一度あたしの真正面に立った。

じっと見つめるビー玉のような瞳。
街灯に照らされた奥が、サファイア色に光る。



「凛の帰る場所は俺の家。分かった?」



子どもに教えるかのように、ハッキリとした口調。


あたしが……帰る家。
放浪でも、毎晩別の場所でもなくて……



「じゃねぇと、鎖繋げんぞ」

「……それは、嫌」

「ならおとなしく着いてこい」

「……うん」



意地悪な言葉が、優しさなんだと
今はもう分かる。
 
< 39 / 258 >

この作品をシェア

pagetop