うそつきは恋のはじまり



俺の恋人、七恵は12歳上の社会人。可愛いものが大好きで、中身も見た目も年齢より非常に若い。



始まりは偶然乗り合わせた電車で、酔っ払いに絡まれた俺を彼女が助けたというなんとも情けないもの。

絡んでくるサラリーマンにどうあしらおうかと考えていた時に、間に入った彼女は、まさかのサラリーマンを背負い投げ……。

予想もしなかった光景に一度は若干引いてしまったけれど、擦りむいた手にも気付かずに笑う彼女に惹かれ、近付きたいと思った。



もともと、高校生の頃から同じ電車によく乗っていたその頃から、彼女を見かけてはいた。

少し帰る時間帯が遅れた日に、彼女はだいたい乗っていて、背格好からきっと社会人として働いて何年も経つのであろうことはわかっていた。

電車に揺られていた間、彼女はよく色が塗られた自分の爪を見てうっとりとしたり、携帯を操作しながらにやけたり、と自分だけの時間を過ごしていたように思う。



変わった人だな、そう思いながらついつい目は向いて、好きなものを見るときのキラキラとしたその瞳に、つられて笑ってしまうこともあった。

いつしかその眩しい眼差しは俺にも向くようになって、その度一緒に笑える日々。



出会ってから付き合って少しするまで、10歳も嘘をついていたのには少し驚いたけれど、それを必死に隠しながらあたふたして、『嫌われたくなかった』と泣く彼女はとてもかわいらしく、愛おしいと思った。

その気持ちは、付き合って一ヶ月が経とうとしている今も変わらずに。



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