うそつきは恋のはじまり



「七恵!」

「わ、彼方くん……?」



すると後ろから名前を呼ぶ大きな声。思わず足を止め振り向けば、そこにはわざわざ追いかけてきてくれたらしい彼方くんがいた。

運動が苦手と言っていた彼は、少しの距離を走っただけでちょっと苦しそうに息をしながら。



「ど、どうしたの?」

「送るよ、せめて駅まででも」

「……いい、ひとりで大丈夫。戻っていいから」



気まずさに目を合わせられず視線をそらすと、彼はなにかを感じ取ったようにこちらを見つめた。



「なにかあった?嫌なことでもされた?」

「ううん、全然……みんないい人だったし、楽しかった」

「じゃあなに?」



真っ直ぐに問いかける声。やっぱり、彼方くんはいつだってこうしてきちんと向かい合ってくれる。

なのに、私は。



「……見てて、思った。やっぱり私と彼方くんって、不似合いだよ」

「え?」

「だって、どう見ても歳が離れていて……彼方くんみたいな子がどうして私なんかって、さっきの子たちも『変』って笑ってた。『彼方に幻滅した』って、言ってた」



かすかにこぼした言葉は、止まらない。

思いをぽつりぽつりと伝える私に、見つめたままの彼方くん。その不穏な空気に、通りすがる人々はどうしたのかと横目で見て歩く。


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