重なり合う、ふたつの傷


お昼休み。


「梨織、ちょっと来て」


ルミが私を屋上へと連れ出した。

普段、屋上は鍵がかかっているけど、昼休みは地理の関口先生が隠れて煙草を吸いに来るらしく、こうして開いている事が頻繁にあった。


「なに、ルミ、どうしたの?」


ルミは周りを見渡して、関口先生の姿がない事を確認した後、こう言った。


「ルミ、梨織と天野くんの事、応援するから」


「ありがとう」


「で、どうなの、もうしたんでしょ?」


「したって、……キスとか」


ルミの唇が私の耳に近づいた。

「キスじゃなくて、その先」

ささやくように言われ、吐息がかかってくすぐったい。


「してないよ。だってキスもまだ」


「えー、もう五日目でしょ。天野くんと一緒に暮らして」


「うん」


確かにもう五日目。キスもまだしてない。というより、手も触れ合う程度で、しっかりとは繋いでいない。



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