重なり合う、ふたつの傷


「ジュース持ってくる」


天野くんはそう言ってキッチンへ。


冷蔵庫を開けた瞬間、だらーんと両手を下げ、しゃがみこんだ。


「梨織、りんごジュースがない。ペットボトルの真ん中にりんごちゃんの妖精マークがついてるやつ」


「あっ、ごめん。さっき飲んじゃった」


「はぁ?」


「待ってて。自販機で買ってくる」


急いで買いに行こうとした私を天野くんが引き止めた。


「ストップ。あれはこだわりのりんごジュースで、三つ先の信号を左折した所にあるスーパーにしか売ってないんだ」


「いいじゃん、普通のりんごジュースで」


「よくない。さあ、行こう」


「どこへ?」


「三つ先の信号を左折した所にあるスーパー」


天野くんはそう言いながら引き出しを開け、小さな鈴のついた自転車の鍵を取った。



鈴の音が合図となり二人で夜空の扉を開け、外へ出た。



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