重なり合う、ふたつの傷


二人で並んで歩く。

途中で多摩川を眺めた。


緩やかな流れ。

土手に伸びるふたつの影。

対岸で飛び立って行く飛行機。


「飛行機だ」


「ああ、あれ羽田空港だよ」


「そっか。二人でどっか行っちゃいたいね」


「行きたいけど、俺たちにはまだ早いよ。まず、ひとりずつ飛ばなくちゃ。色んなものをクリアーにしてさ」


天野くんは逃避行を望まない堅実な人なんだ。


「うん。私、飛べるかな……」


「飛べるさ、今日、きっと」


飛行機を迎え入れている青空。



その光景が今でも焼きついている。このなにも定められない不確かな目に。


「じゃ、行ってくるね」


「おう、行ってこい」


私は赤い電車に飛び乗った。


手は振らなかった。

私も天野くんも。

手を振ったら、永遠のお別れのようで寂しくなりそうだったから。





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