重なり合う、ふたつの傷


予定通り、戸塚の駅前でルミと合流した。


「おはよー、梨織」


「おはよう、ルミ」


「風邪、大丈夫?」


「うん、大丈夫」



高校の最寄り駅である横浜駅までは電車で十分程度だったが、上りのため車内は満員だった。

車内にこもる熱。

異様な湿気。

なんとも言えない空気感。


人が人を押し込んでいく。

人、人、人の羅列。

小学生の頃、習っていた書道で『人』という字を書いて銀賞をもらった。


墨の匂いが懐かしい。


『人』は、たった二画で支え合っている。

繊細なバランスだけど、一度半紙に書いてしまえば、滲んでも倒れる事はない。

私たち人間の『人』は何人いても支え合えないから、だから満員電車に身を委ねて、嫌でも周りと体を接触させて支え合わなければならないのかもしれない。


どこかで感じている墨の匂いが周囲の汗の臭いに変わった。


それでも、なぜだか気持ちは前向きだった。

通勤ラッシュという社会人にとっての地獄を今から簡単に味わっておくのも悪くはないな、と思えたのだ。

新しい制服がそう思わせてくれたのかもしれない。




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