重なり合う、ふたつの傷


「後、一週間経ってもお母さんから連絡がこなかったら、警察に捜索願いを出そう」と、お父さんが言った。


だけど、なんのためにお金を使い、借金を重ねたのかそれがわからなかった。


貴金属だって持っているのは婚約指輪と結婚指輪。他にはエメラルドのネックレスとピンクゴールドの指輪だけ。どれもお父さんがプレゼントした物。


ブランド物も持ってないと思う。


それを確かめるためにクローゼットを開けてみたけど、やっぱりひとつもなかった。


それにしても、暗い。


明かりがではなく、クローゼットの中にある服の色が地味で暗い。

茶、黒、グレーだけ。その三種類の色が重たいハーモニーを奏でている。

そっか。だから私は、白、ピンク、黄色が好きなんだ。


お母さんはバイトのない日、どうやって過ごしていたのだろう。

お母さんが行く場所、好きな場所がどこなのか私はひとつも知らなかった。

泊まらせてくれるような友達がいるのかどうかもわからない。


それはお父さんも同じで。


捜したいけど、どこを捜せばいいのかわからずにいた。



その夜、私は物置に隠し入れていたボストンバックをこっそり部屋に運び、天野くんに《おやすみ》のメールを送って一日を終えた。





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