重なり合う、ふたつの傷


戸塚駅で待ち合わせていたルミが手を振っている。


この光景もいつもと同じ。


私の胸にある傷跡はルミも知らない。


言ったらルミにまで悲しい記憶という後遺症を残してしまう。


「梨織、なにかあった?」


ルミは私の顔を覗き込むようにして純粋な大きな瞳で私を見つめた。


やっぱりルミは私の親友だ。こうしてなにかが伝わっている。


悲しい記憶という後遺症を残してしまわないように、お母さんが出て行ったという事だけを話した。


「ルミ、梨織のお母さんの顔知ってるから、見かけたら絶対離さないでおく。それで梨織に連絡するから」


ルミが私の手を力強く握り締めた。


「大丈夫、見つかるよ」


「うん。ありがとう」



授業は頭に入ってこなかった。


大好きな数学も答えまで導かれず迷走。こんなに解けなかったのは初めて……。天野くんの気持ちがほんの少しわかった気がした。


でも英語だけはしっかりノートをとったし、頻繁に頷いて、反省してますよ、頑張っているんですよ感を春日先生にアピールしていた。




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