私の師匠は沖田総司です【上】
やっぱり……私を抱きしめているのは師匠だ。
岩城升屋事件の時感じた感覚と一緒。
あの事件のとき私を止めてくれたのも。
その後不思議な世界で師匠に会えたのも。
全部夢だと思っていたけど、やっぱり師匠は私の傍に居てくれたんだ。
涙が頬を伝う感触がした。
さっきの雪の涙とは違う温かい涙。
私は涙を流しながら静かに目を閉じた。
視界が暗闇に染まると、抱きしめられている感触をより強く感じる。
師匠がここにいるんだって感じることができる。
「師匠……、私、山南さんの未来を変えられましたよ。最初はどうなるか不安だったけど、山南さんを救うことができました。
人の未来は変えられるんです。今日、そのことを確信しました。絶対、師匠の未来を変えますから、安心してくださいね」
再び私の身体を抱きしめる力が強くなった。
『蒼蝶、ありがとう』
耳元で囁くような師匠の声がした。
目を開いてみるけど、やはり師匠の姿は目に映らない。
腕を伸ばして師匠の体を抱きしめようとしても、空気を掴み腕を交差してしまう。
私からは触れることのできない抱擁……でも、感じる師匠の温もり。10年間、私に安らぎを与えてくれた温もりは確かにあった。
そして離れるように師匠の温もりは消え、私は再び一人になった。
でも、寂しくはない。
悲しくなんかない。
だって、師匠が近くにいるって分かったから。
「天宮さーん」
遠くで組長が私を呼ぶ声がした。
私は絶対に師匠の未来を変えようと、決意を新たに、組長の所に向かって走り出した。
【END】