たんぽぽぽ。

君の名前は

清蘭とも別れ、叶衣が家に着くとポストに何かが届けられていた。
随分と可愛らしい包みに入っており、住所等が書いていないことから誰かが直接届けたんだろうと思う。

「……あれ、これ俺宛?」

叶衣は水色の星の柄が散りばめられている包み紙を一瞥し、てっきり姉宛かと思っていたのだが、そこには宇田叶衣の名前が小さく書かれていた。
送名はない。
ただ、裏に小さく花のイラストと、丸と三角で描かれたどうやら女の子らしい記号とが描かれている。
少し首を傾げたが、とりあえずそれを持って部屋まで行き、そこで開けた。
中身を見た途端、叶衣は息を止めた。

「――っ!」

丁重に箱にしまわれているそれを、動揺に震える手で土台から外す。
手のひらに収まるサイズだが、ずっしりと重いそれは――日光を通して七色に輝く。
遠い記憶が鮮明に蘇った。
幼い自分の目標だったそれ。
手のひらで転がる、これを手に出来る人間になろうと、そればかり考えていた頃の記憶。
顔を輝かせて見せてくれた叔父の顔は、いつでも硝子を融かす熱で頬が赤く腫れていて。
『職人』の顔はこんなにもかっこいいんだと思った。憧れた。

それは――硝子で出来た、綺麗な綺麗な万年筆だった。

「なんで……こんな。だって、叔父さんは死んだのに……」

――一体誰が?何のために?
あの日交わされた約束は、二人以外に知るものはいないと思う。
約束をしたわけではないが、なんとなくそういうことになっていたのだ。
それなのに、叔父の手づくりのペンがここにある。
大切に握り締めていると、つやつやとした硝子細工のある一つの部分が、少しザラついているのに気が付いた。
よくよく見てみると、文字が掘ってある。

やけに震える字で、小さく小さく『dear kanai』と。

彼は叔父が文字を書くところを見たことはほとんど無いが、それでも確信する。
それは叔父の字だと。

それにしても、なんでだろうか――?
考えれば考えるほどに疑問が脳内を満たす。
それは、包み紙から零れ落ちたメッセージカードで頂点に至った。

『ハッピーバースデー!』

という、やけに角ばった文字が特徴的な見たこともない筆跡のカードで。
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