そこにいる
僕は、その言葉を聞くだけで、ゾクッとしていた。

まるで、死のキーワードであるかのような言葉に思えた。


そうしてもう一つ。

ほぼ硬直し、うつ伏せでありながら、顔を横向きで倒れている荒江の首筋に

『偽』

という、青黒い文字が浮かんでいた。

その文字を見て、僕はゴクリとツバをのみ込んだ。



その後、他の先生達がやって来て、荒江はとりあえず救急車で運ばれたが、最近ニュースになる人たち同様、即死だったという。


僕と菜都とシン、そして例の2年生の4人は、先生たちに荒江が亡くなる前の状況とかを訊かれた。

僕は、特にこと細かに語れることなど無かった。

ほとんど、その2年男子が喋ってくれたからだ。


彼については、意外にも菜都が知っていた。

先生達から質問を受けた後、3人でクラスへ戻る途中に菜都が言った。



「やっぱスゴイね。小坂先輩!」



「へ?菜都知ってるの?」



シンが返した。



「え!?女子の間では有名だよ。2年では学年トップの秀才だし!顔もソコソコだから、狙ってるコ多いんだよ!」



「そーゆー情報って、ホント女子はすげぇよな!」



シンは半分あきれ顔で笑った。


しかし、シンの反応とは逆に、僕の中でも、小坂先輩のカブはすごく高い位置にあった。


あの状況で、学年は違えど、同じ高校生にあんな勇気があるなんて、正直信じられなかった。


でもほんの少しでも、僕にあんな勇気があれば、世の中ももっと平和になるのかな・・・


なんて、ちっぽけな正義感を僕は奮い立たせていた。



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