そこにいる
「松浦くん・・・」


挙動不審な僕に、廊下から声を掛けてきたのは、菜都と同じクラスのリツ子だった。

リツ子は、僕を呼ぶと、そのまま廊下で僕が来るのを待った。

僕は、まだ全身マヒから身体が覚めないまま、無理矢理身体を廊下まで運んだ感覚だった。



「なに・・?」


僕は、誰も信じられない中、言葉少なに話した。


「あのね・・今日・・菜都・・具合悪くなって早退したんだ。・・だから、松浦くんに伝えておいて・・・って・・・」


「菜都が・・・?・・・どんな具合?まさか・・・」


僕は、昨日の荒江の修羅場を思い出した。

まさか菜都までが・・・

しかし、それ以上言葉にする事は出来なかった。


「うん・・。分かった・・わざわざアリガト・・・」


僕がそっけなくリツ子に返すと、リツ子はそそくさと自分のクラスに戻って行った。


『菜都・・・メールも出来ないくらい具合が悪いのか・・・』


いつもなら、待ち合わせに遅れる時など、すぐにメールをくれる菜都だった。

それが今日は伝言か・・・。

朝の気まずさもあるし・・・。

僕は極力、菜都の事はゲームとは結びつけないように頭をコントロールした。

菜都は居なかったが、僕はとりあえず屋上に行くことにした。

昨日、あんな事があって、普通の神経なら屋上になんて行かないだろう。

でも僕は・・・

今、このクラスで皆と居る事の方が、なんとなく怖かった。

1人1人は、別に悪い事をしているワケじゃない。

皆、死にたくないからバレないように必死に隠している。

ただ、それだけだ。

でも、そんな重大な事を隠し通せる神経が・・不気味だ・・・。

そんな事を思いながら、僕は屋上のドアを開いた。


案の定、屋上は殺風景だった。

いつものように、ランチをしに来てる生徒はやはり居ない。


が、1人・・・屋上の隅のベンチで本を読んでいる男子が居た。


『2年の小坂先輩・・・』


昨日、勇敢にも倒れた荒江に近寄って、機敏に対応した、僕の尊敬する男子だ。

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