南柯と胡蝶の夢物語

12,雲蒸竜変


12,


「ああ……」

妖精は大気が青く光って見える宇宙空間で、静かに泣いた。

「……ごめん」

静かに息を吸い込むと、瞳を閉じて、涙を流しながら両手を軽く地球の方へと伸ばした。

やがて、ぽこりぽこりと小さな青白く光る球体が浮かび上がり、しゅるしゅると打ち上げ花火のように妖精の手元に集まっていく。

「本当に、たくさんあるんですね……」

悲しげに呟くと、それらを一つ一つ自分の胸に押し当てていった。
千を超えるその球体が、丁寧に妖精の身体の中へと仕舞われていく。
最後の一つを妖精は愛おしげに撫でた。

「紗良里だね……綺麗な命だ」

それも大切そうに胸の中に仕舞われた。

「さて、これからどうしようか」

ふうと息をついて、誰に聞かれることもなく宇宙空間を漂ったその呟きが一体どのような感情を持っていたのかは、誰にも知られることはなかった。
楽しそうだったのか、あるいは悲しそうだったのか、疲れていたのか、元気だったのかということは、誰にも。
妖精は地球に背を向けて何処かへ羽ばたいて行ってしまったのだから。










地球上ではその日大騒ぎだった。
何年も人類を苦しませていた濁花が、突如として消えたのだ。
花に酔っていた人は正気を取り戻し、花が咲いてしまった人はそれが綺麗にぽろりと取れた。
身体に出た目や口も跡形もなく無くなって、まるで濁花の存在自体が夢でしたと言わんばかりであった。
また、その日は地球全体で計算外れの流星群が観察されたという。
しかもただの流れ星ではなく、通常の流れ星とは逆方向、つまり天に向かって流れる星であったというのだ。
これは天文学者を大いに唸らせる出来事だった。
連日その二つの事柄は報道され、関係性が調査されたりと世間を大いに賑わいさせたが、この世に神が消えたということに気がついた人はほとんどいないのだった。

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