君の名を呼んで

撮影も順調に進み、今日の予定を消化できそうな見通しがたってきた。

うん、なんとかなりそう。
私は腕時計と手帳とのにらめっこを終了する。

ふと私の隣に立った長身の影に気付いて、見上げたなら。

「城ノ内副社長!?」

「よぉ、雪姫」

なんでここに?

「ウチのホープ見にきたら悪いかよ。商品管理も俺の仕事だ」

「そ、そーですね?」

……一理ある、けど。
副社長が現場に来ることは珍しい。
こちらに気付いて朔が近寄ってきた。

「どうしたんです、城ノ内さんが来るなんて珍しいですね」

朔も驚いている。
やっぱり稀なんだ、こんなこと。
すると副社長が鼻で笑って言う。

「ああ、未熟で口の悪い平社員がウチのスターの代理マネなんて、ヘマしてないか不安になってな」

「それってもしかしなくても、私のことですか!」

ひどい言いぐさに横目で副社長をじとっと睨めば。
朔が私と城ノ内副社長を見比べて、かすかに笑った。

「ご心配なく。雪姫はよくやってくれてますから。つーか、こんなに気が合うマネージャー初めてかも」

「朔!?」

言われると思っていなかったフォローと言葉に、私は思わず朔を見上げた。
う、けど人気ナンバーワンの所属俳優にそんな気を遣わせてる時点で、かなり情けないよね。


複雑になりながらも喜ぶ私を見て、城ノ内副社長はふうん、と呟く。
低く笑った。


「雪姫と朔ね。
呼び捨てで呼び合う程度に、仲良くなったなら何より」


……ん?
なんだろ、何か引っかかった。

朔は副社長の言葉にふっと笑い、撮影に戻っていく。
後に残された私と副社長は妙な雰囲気。
嫌でもあの会議室を思い出しちゃって、気まずい。
< 10 / 282 >

この作品をシェア

pagetop