君の名を呼んで
商品に手を出すな
それからしばらくしたある日のこと。
出社した私は、いつもと違う空気と、たくさんの目線にさらされていることに気づいた。


「……あの子」

「えー、マネージャー?」

……な、なに?
あまり好意的でない視線と、戸惑いの視線。
私を見てひそひそと話すスタッフに戸惑っていると、奥から社長が私を呼んだ。

「梶原」

梶原ちゃん、じゃない。
その顔も心なしか固い気がする。
私は不安にざわざわし始めた心臓と共に、足早に社長室へ向かった。
といっても同フロアでガラス張りだから、嫌でも中が見える。
そこには当然、城ノ内副社長も居た。

私を部屋に入れると、社長は壁に手を伸ばす。
社長室はスイッチ一つでガラスを真っ白な曇りガラスにする事ができる。
けれどそうしようとした社長の手を止めて、城ノ内副社長は、手元の紙の束を睨みつけたまま口を開いた。

「発売前の雑誌の原稿だ。うちで差し押さえたがな」

……え?

芸能事務所だから、検討はつく。
多分、スキャンダル写真。
でも、発売させずにわざわざ買い取るようなことをするなんて――。

城ノ内副社長からバサリと投げつけられたそれを見て、私は驚愕した。


「なに、これ……」


『二ノ宮朔、マンション前で深夜の密会』

そんな見出しの下に大きく載せられた写真には。
朔と女性――私が、まるで抱き合っているみたいに写っていた。

「あ……っ」

いつかの夜。
こけた私と庇ってくれた朔――あのときの写真だ。

「やだ、なんで、違いますこんな」

言いかけた私を遮るように、城ノ内副社長の冷たい声が響いた。


「お前、商品に手を出したのか?」


――え……?


あまりの言葉に、私は頭が真っ白になった。
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