君の名を呼んで
「うまくいったの?」

私の涙でぼろぼろな顔を一目見て、戻ってきた朔は苦笑した。

「ごめ、さくぅ……」

もう言葉にならない私の頭にぽんっと手を置いて、朔は城ノ内副社長を見た。

「俺の大事なマネージャー、泣かせないで下さいよ。仕事に差し支えまくってるんですけど」

「るせ。半分はお前のせいだ」

おとなげなく副社長がそう言って、私の頭から朔の手を払い落とした。

「え……」

何、なにいまの。ヤキモチ!?
私と朔のビックリした視線に副社長は目を逸らす。

錯覚かな。願望かも?
その頬が、ちょっぴり赤い気がするなんて。

「全く。また泣かせたら奪い取りますからね」

朔はそれは素敵に笑って。
私に“良かったね”って頷いてくれたんだ――。



その後、朔を自宅まで送って、私達はまた車内で二人きり。
でも行きのような重苦しさは無くて、だけどなんだか気恥ずかしさに副社長を見られない。

「あの、会社に戻りますか?」

もう21時を回ってる。

「いや、自宅に頼む」

城ノ内副社長の家は会社からそう遠くないマンションだ。
何度か送迎させられたから、道も覚えてる。

30分程で到着したら、副社長はそのままマンションの駐車場に車を停めるように指示した。

「俺の車は会社に置いて来たからな。明日はこれで出勤する」

副社長は車通勤なんだ。

「あ、そうですか。じゃあ私は電車で……」

なんて駅に向かって帰ろうとしたら。

「お前も一緒に行けばいいだろ」

城ノ内副社長が私の肩を引き寄せた。
そのままマンションのエレベーターへ向かう。

……ん?

私は慌てて彼の顔を見上げた。

「ちょ、ちょーっと待って下さいよ?それってもしかして」

「帰さねえっつってんだよ」


はあああ!?
な、なんなのこの急転開は――!?

「今まで我慢させられた分、堪能させてもらうからな」

ニヤリと笑う副社長に。

「あなた全く我慢なんかしてないじゃないっすかー!!」

ぎゃああ、なんて色気皆無な悲鳴をあげながら。
私は城ノ内副社長の部屋へと誘拐された。
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