Call my name

いじめと出会い



 それからあたしは、毎日いじめられるようになった。

 つくえは悪口で埋まっているし、教科書は文字が解読不可能。

 今日は上靴を捨てられた。

 やっぱりこれが自然なんだろう。あたしはいじめられて当然の存在。

 でも上靴は見つけなければ。ばあちゃんに迷惑がかかる。

 外は小雨が降っている。

 たぶん、外に捨てたんだろうな。

 上靴はすぐに見つかった。雨で湿った花壇に埋まっていた。

 土を払いながら、涙が流れた。

 何年ぶりに泣いただろう。久しぶりついでに笑っておこう。

「ふふ、ふ。あははは」

 馬鹿みたいだ。けど、気持ちいい。どうせ一人なんだから、これでいい。

 すると肩に大きめのジャージが掛けられた。

「泣きながら笑うとか、お前器用だな」

 振り向くと、黒の短髪で、目つきの鋭い男子生徒がいた。

「いじめか。お前、名前は」

 あたしはジャージを押し付け、去ろうとした。

 が、手首をつかまれて引き留められる。

「一年だろ。俺は三年の速水行人。お前は?」

「……神永文」

「文?」

 なんだ。こいつも名前を馬鹿に……っ。

「いい名前だな。お前の雰囲気に合ってる」

 !

 嬉しい、かもしれない。

 こんな温かい気持ちは生まれて初めてだ。

「なあ、文。俺と友達になろっか?」

 友達……。

「何故……」

「文の目。何も楽しくない。誰とも関わりたくない。って思ってるだろ」

 まあ、近いではある。

「そこで俺。俺と友達になれば楽しいぞお。もれなく阿呆三人衆もついてくる。……いじめなんかで学校生活を終わらせるのもなんだしな」

 行人はニカッと笑った。

 けど。

「いい。……あたしは一人でいい」

 掴まれていた手をほどいて歩き出す。

 あたしには楽しむ権利なんてない。

「ちょっと文! 待てよ」

 でも、いるんだな。あたしに笑いかけてくれる人。

「ただいま」

「おかえり。あら文、濡れているじゃない」

 ばあちゃんは優しい。

 でもあたしは、優しさに慣れていなくて、少し怖くもある。

「傘、忘れた」

「雨降っるのにかい? 天然ってやつじゃね」

 ほほほ。とばあちゃんが笑う。

「ほら、はよ着替えてきい」

「うん」

 友達、か。いたことないからよくわからない。

「……速水行人」

 いい人だったな。

 もう、会うことはないだろうけど。
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