甘い記憶の砕片
プロローグ

 目が覚めると見知らぬ天井に捕まった。
 白色をした板に規則的に並ぶ丸い穴から、どこかの施設の天井だということは分かった。
 そう、病院のような。
 ここは何処だろう、今は何時だろう、そんなことを薄らと考えようとするが、その度に頭に鈍い痛みが走って思考を許してくれない。
 そんな私を引っ張るように、聞き覚えのない男の声が私の名前を呼んでいる。

「美岬?美岬?美岬?」

 その男の声を私は知らないハズなのに、妙に心地よくて安心した。
 頭が少しずつ溶けていくのが分かる。
 ゆっくりと視点を合わすと、知った顔があった。

「光井くん?」
「美岬、分かるか、美岬、良かった。」

 私と目を合わすと光井くんは、本当に安心した様子でため息を付いた。

「ここは何処?」

 起き上がろうとする私を光井くんは止めて、微笑みながら告げた。

「ここは病院、交通事故で運ばれたんだ。」

 事故?言葉が出なかった。

「今、先生を呼んでくるから、横になってて。」

 そう言って光井くんは、慌てて病室を出ていった。
 白いベッドに白いカーテン。個室の病室だろう。窓の向こうには青い空が広がっていて、その手前には少し萎れた向日葵の花が活けてあった。
 いつ事故にあったのだろう。まったく記憶にない。でも、左腕に巻かれた包帯と頭に響く痛みは確かなものだった。
 ひんやりと冷房で冷やされた室内の空気と、窓の外の空からして、季節は夏だ。でも、今は果たして夏だっただろうか。おかしい。季節が変わってしまう程眠っていたのだろうか、いや、包帯を巻かれていない腕の擦り傷からして、事故にあったであろう時からそんなに時間は経過していないハズだ。
 頭が無駄に回転する。
 違う、多分、困惑とか錯乱とかという言葉の方が正しい。
 訳が分からない。何がどうして、私はここにいるのだろう。

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