冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



『じゃあ、私は三代目の嫁か……。なんか、おかしい。社長夫人なんて似合わない』

ふふっと笑った私に、最初は驚いた顔を見せた紬さんだったけれど、肩をすくめる私に小さく、そしてほっとした息を吐いていた。

紬さんとの結婚を拒み続けていた私が口にした、ようやくそのことを受けいれた言葉には、彼の心をほっとさせる力があったようで。

その表情を見ていると、私の心も軽くなるのを感じた。

入籍してしまったからと言えば投げやりにも思えるけれど、紬さんとの結婚を受け入れる理由を探していた私には、それこそが自分の心を軽くする大きなきっかけだったと思う。

私を大切に思い、家族として受け入れてくれた紬さん。

嬉しさと混乱と、不思議な思いが体中にあふれるけれど、『三代目の嫁』から逃げようとは思わなかった。

私だって、国内有数のグループ企業の創始者の孫。

そこに含まれている重圧と危険は十分知っている。

年齢を重ねても尚、現場の第一線を退くことなく社長として指揮をとるおじい様の苦労を小さな頃から見ていたせいか、紬さんがこの先背負うであろう重圧と責任を予測することは簡単だ。

そして、経済的に恵まれた家庭に生まれた私が味わった恐怖。

誘拐されるかもしれない、という危険性は、生まれながらに課せられたハンディかもしれない。

だから、紬さんがセキュリティ対策を重視したマンションを新居として決めたことも、理解できる。

誘拐が極端なものだとしても、私たちが身につけているものは、他人の感情に対する強さだ。

周囲から投げられる神経質で悪意も含まれた辛辣な感情の刃。

悲しいかな、慣れているから、今更怯える事もないし、落ち着いた心境で受け入れられる。




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