冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




それに今のこの状況ってどう考えてもおかしい。

「離してよ」

「きつく抱かなきゃいいんだろ。ゆるーく優しく抱いてやるから我慢しろ」

「はあ?なんであなたに抱きしめられなきゃいけないのよ」

「ん?抱きしめたいから。お前、意外に反応いいし、いい声出すし」

今のこの状況を受け入れているような、彼の淡々とした表情を見ていると、この状況への私の反応が逆におかしいのかと、一瞬首を傾げてみた。

背中に回された江坂さんの両手は、相変わらず私を逃がさないとでもいうようにきつく結ばれているし。

「えっと……」

私は、江坂さんに抱きしめられて、キスされて。

これってお見合いの席では当然の展開……?

「んなわけないでしょ」

江坂さんの言葉に洗脳されて、この腕の中にすっぽりと包まれたままでいてもいいかなと思ったけれど。

「え、江坂さん、私と結婚しないって言ったでしょ。ほんの数分前に」

「今すぐにはしないって言っただけだろ?人の話はよく聞けよ。だけどな、もう面倒だから今すぐにでも結婚するって決めた」

「なんなのよ一体。おかしいでしょ、今すぐに結婚なんて」

そうだ、やっぱりおかしい。

「とにかく、私は、あなたが……」

江坂さんを拒否して、この場から逃げ出そうと身をよじった途端、再び落とされた唇。

何度も何度も私の唇を味わいながら、気持ちを染み入らせようとでもするかのように甘い言葉をささやいている。



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