冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




たかだか入社5年目のOLに、会社の将来を左右する力があるとは思えない。

それも、業界大手の建設会社だ、私のお見合いへの返事がこの会社の今後に影響を与えるなんて、冗談だとしか思えない。

「部長、冗談はいい加減にしてください。とりあえず私は午後からの会議の資料作りがまだ残っているので席に戻ります。お見合いはしません。以上、決定事項で。よろしくお願いします」

芝居がかったように深いお辞儀をして、そのまま何歩か後ろに下がり、逃げ出すタイミングを図っていたけれど。

お辞儀をして、自分の足元を何秒か見つめたあと、体を起こした瞬間。

にやりと笑った近田部長は、その笑顔を私にあてつけるように向けた。

「葉月さんのおじい様がね、お見合いをさせないとわが社の株式を売却するっておっしゃっているんだよねー」

もったいぶった、それでいて淡々とした声が私を責める。

「お、おじい様……ですか?」

思わず大きな声で問い返してしまった。

おじい様、と、部長は確かにそう言った。

呆然と聞き返した私の心は、無駄だとわかっていても部長が今の発言を冗談だと取り消してくれないかと、密かに願ったけれど。

「そうだよ、葉月さんをずっとかわいがっている、あのおじい様だよ。
『葉月コーポレーション』会長が、葉月さんにお見合いをさせなければ、グループ企業であるわが社の株式を海外の投資家に売却すると本気で言っているらしい」

「え……嘘……」


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