冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う





はっと視線を向けると、紬さんは日里さんを牽制するような目で睨んでいた。

その表情のどこにも余裕はなく、細められた目からは、日里さんが邪魔だという思いがありありとわかる。

仲がいい友達だと聞いていたのに、突然どうしたんだろう。

それに、日里さんはおじい様の会社って言っていたけど、どうしてそれを気にするのかわからない。

「日里さん? えっと……おじい様の会社って」

「瑠依、これ以上このバカに付き合わなくていいから。日里も早く戻れよ。俺ら腹がへってるんだから早く持ってこい。……今日は、瑠依と順調だって、見せつけに来てやったんだ。
それで満足しろ」

相変わらず重苦しい声でそう呟いた紬さんの唇は、不満を隠そうともせず歪んでいる。

どうしてここまで紬さんの機嫌が悪くなったのか、全く理解不能だ。

ここに連れて来てくれたのは紬さんだというのに、私と日里さんが話し始めた途端、不愛想になってしまった。

「あ、そ、そうだね。江坂くんと瑠依さんは、ちゃんとうまくいっているんだね? 良かった、私も安心したし……茅人もほっとすると思う」

その場の空気を変えるように、日里さんが軽やかにそう言うと、それすら面倒くさいのか、紬さんのため息が聞こえる。

「茅人も日里も、瑠依のことを気にする必要はないから。安心して茅人の会社を盛り立てて……せいぜい茅人の代でつぶれないように頑張れ。
それより、カニクリームコロッケ、早く持って来いよ」

「あ、そ、そうだね。ごめんごめん。瑠依さんもお腹空いてるよね、もう少し待っていてね」

「あ、大丈夫ですよ」

ようやく笑顔が戻った日里さんに安心していると、紬さんも元の彼に戻ったように呟いた。


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