やさしい手のひら・後編
現実
「あの日…俺は…」

あの日とはいつだろう…

健太が私から目を逸らし窓の方を見た

健太が何を話してくれるのか、心臓が破裂するんじゃないかというぐらい音を立てていた

聞いてまた打撃を受けるかもしれない

今なら聞きたくないと断れる

そんな気持ちに揺れていた

「仕事が終わって帰ろうとした時、樹里が駐車場で待っていて…」

健太の口から「樹里」と聞いて、胸が苦しくなる

思わず目を強く瞑ってしまった

私の知らない所で健太と佐原樹里はちゃんと恋人同士で、もう私の物ではないと改めて知ってしまった

「俺は亜美が待っているマンションに帰りたかったんだ」

そう…あの日健太は帰って来なかったんだ

ツアーへ行く前の日だから早く帰るって言ってくれたのに…

「樹里が俺の目の前で…」

健太の声がだんだん小さくなっていく

話すのが辛いの?


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