光のもとでⅡ
「翠」
 真後ろから声をかけられ渋々振り向くと、
「……発熱?」
 真面目な顔で訊かれ、額に伸びてきた手を思わずよけてしまう。
「翠……?」
 ツカサの顔を直視できずに俯くと、次に聞こえてきたのは飛翔くんの長い長いため息だった。
「ったく面倒くせぇ……。コレ、たぶんですけど、先輩の応援姿だか長ラン姿に赤面しただけですから」
 やっぱり飛翔くんは意地悪だ。
 そんな的を射た説明をされたらますます顔を上げられなくなる。
 このあとはどうしたらいいものか考えてあぐねていると、頭に手が乗せられた。
「発熱じゃないならいい。痛みは?」
 心配そうな声音にはっとして顔を上げ、
「それは大丈夫っ」
 目が合った状態でまじまじと見られるから困る。
「そんなに見ないで……」
 情けない声で文句を言って顔を背けると、ツカサはくつくつと笑い出した。
 たぶん、どうにも言い訳のできない赤面具合を笑われているのだろう。それに加え、登校時の報復を受けているような気もする。
 でも、よくよく考えてみれば、私は赤面した顔を見ようとしただけで、笑ったわけでもなんでもない。さらには、その場できっちりと報復を受けた覚えだってある。
 冷静に考えれば考えるほど、目の前で笑い続けるツカサに文句を言いたくなるわけで。
 なのに、結果的には笑っているツカサを見ていたくて何も言えないのだから、自分自身に呆れるほかない。
 そして、普段笑わないツカサが笑えば女の子たちが騒がないわけがない。あちこちから痛い視線と甲高い声が届き始める。
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