光のもとでⅡ
 チアリーディングの次は男子全員による棒倒し。
 棒倒しは騎馬戦のときと同じようにトーナメント戦で試合が進む。
 違うことといえば、体操服を引っ張られたり何かに引っかけて頭から落ちることを避けるため、上半身裸で行われること。
 観覧席では男子が一斉に体操服を脱ぎ始め、あちこちで女子の悲鳴が挙がっている。
 これは悲鳴なのか、歓喜なのか――。
「キャー」と言いながらも男子を目で追う女子の声は歓喜で、両手で顔を隠し叫んでいるのは悲鳴かな……?
 そんなふうに女の子たちを観察する私は、発狂こそしないものの後者の部類。
 ツカサの姿を探したい気持ちはあったし、赤組を応援したい気持ちだってたくさんあった。
 けれども、あまりにも刺激が強すぎて、私は観戦することも応援することもできずに本部で縮こまっていた。
 だからと言って、体操服を着て戦って、怪我人が出ても困るわけで……。
 目の前で繰り広げられる競技を直視できず、放送委員が口にする勝敗の結果のみ紙に書き記していると、背後から声をかけられた。
「御園生さん」
「はい」
 声のする方を振り返ってすぐに目を逸らす。
「あ~……ごめんね、こんな格好で」
「いえ……」
「そのままでいいから聞いてもらえる?」
 パッと見ただけだけど、この人はたぶん紫苑祭実行委員長だ。
 きっと、集計か何か、仕事の用事で話しかけられたのだろう。なのにこんな対応、だめに決まってる。
 意を決して話し主の方を向いたものの、視線を上げることはできなかった。
「いいいい……そのままでいいから」
「すみません……」
「いや、なんていうか、藤宮たちが心配してた理由がよぉっくわかったわ」
「え……ツカサたち、ですか?」
「うん。御園生さんが本部で目のやり場に困ってると思うから、今だけ集計代わってってお願いされた」
 な、情けない……。
 土下座して「申し訳ございません」と謝りたい気分だ。
「観覧席に戻れば距離が取れる分まだマシでしょ? 戻っていいよ」
「……すみません、ありがとうございます」
 私はすごすごと引き下がり、不自然なほど壁を見続け観覧席へ戻った。
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