光のもとでⅡ
「右手のどこっ!?」
「あっ、親指から手首にかけての筋だと思う……」
「これ? こっちかっ!?」
「痛いっ、そこっっっ」
「怪我してたら痛いのが当たり前だろっ。おまえ、バカだと思ってたけど本当にバカなんだなっ!?」
 暴言具合が相馬先生レベルだ……。
 でも、言っている内容だとか行動はすべて私のためにしてくれていることで――。
「このくらいで泣くなよっ!?」
「えっ? あ……ちょっと唖然としたけど、このくらいの暴言じゃ泣かないよ?」
 ものすごく真面目に答えたのに、佐野くんと谷崎さんがゲラゲラと笑いだし、飛翔くんは仏頂面でテープを貼り始めた。
「飛翔くん、ありがとうね」
「別に……」
 佐野くんと揃ってフロアに出ようとしたそのとき、谷崎さんに手を引かれた。振り返ると、
「先輩、昨日はすみませんでした。ワルツ、がんばってきてください」
「うん。がんばってくる」
 私はしっかりと目を合わせてからフロアへ足を踏み出した。

「御園生、本当に大丈夫?」
 佐野くんに小声で尋ねられ、
「佐野くん、それを訊くのは禁止の方向で」
「……了解」
 棄権なんてしてやらない。びっこなんてひいてやらない。
 最後までノーミスで踊りきってやる……。
 観覧席中央の階段から下りてきた桃華さんたちと合流すると、
「翠葉、どこへ行ってたの? 佐野も……」
「半月ステージの裏にいたの」
「どうして?」
「最後の練習」
 にこりと笑い、静音先輩と風間先輩のあとについてフロアへ出る。
「ミソノウサン、根性アリマスネ」
 苦笑を貼り付けた佐野くんに、
「なんのことでしょう?」
 私はできる限りの笑顔を返す。と、
「あとでこのこと知った簾条とか、俺、超怖いんだけど……。ついでに藤宮先輩も怖い」
 あぁ、そこは私もあまり考えたくないかも……。
「……佐野くん、黙ってようか?」
 さすがに普通には笑えず苦笑を返すと、「そのほうがもっと怖えぇ」という返答をいただいた。
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