光のもとでⅡ
 でも、怯むより先。ツカサが発した言葉に危機感を覚え、周りに人がいないか見回す。しかし、すでにこの階には私とツカサしかいないようだった。
 ほっとしながらツカサに視線を戻すも、今にも職員室へ直訴しに行きそうなツカサを必死に宥める。
「もう謝罪は受けたしこの話は終わりにしようっ?」
「謝罪を受けたら怪我が治るとでも?」
「まさか……」
 さすがの私だってそんな楽観的な考えは持っていない。
「この先しばらく右足を庇う生活になるだろうし、いつもなら二十分かからない距離を三十分近くかけて登校する羽目になることが、翠にとってはそんなに軽いことなのか?」
 ツカサは視線を移し、
「その手でピアノ弾けるの? その手で毎日板書できるの?」
 えぇと、ごめんなさい……。
 申し訳ないくらいに目の前のことにいっぱいいっぱいで、明日以降のことなんて一ミリも考えていませんでした。でも――。
「大丈夫。ゆっくり行動することや、前もって行動するのは割と得意だから。板書が間に合わなければ友達に見せてもらうなりコピーしてもらうなりする。ピアノは――先生に診てもらってから考える」
「俺は納得できない」
「……ツカサは関係ないでしょう?」
 この言葉は突き放した言い方に取られるかもしれない。でも、この怪我にツカサは関係ないと言い切りたい手前、こんな言葉しか出てこなかった。
「翠が突き落とされた理由に俺が絡んでいたはずだけど?」
「そうだけど――。でも、直接ツカサが絡んでいるわけじゃない。私は、私に嫉妬した人に突き落とされたの。実質被害を被ったのも当事者なのも私だよ? ツカサが許す許さないって話じゃないでしょう?」
 そこまで言うと、ツカサは一度口を噤んだ。再度開くと、
「翠は俺と同じ立場でも同じことが言えるのか?」
「……わからない。でも、私はこれ以上この件を引っ張りたくない。……私のために怒ってくれてありがとう。でも、これ以上はもういい。もう、やだ。この話、やだ……」
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