光のもとでⅡ

Side 司 02話

 祭り再開の言葉を経て、準備運動が終われば代表応援が始まる。
 服装を改めた団員とフロアへ下りると、階上にカメラを持つ翠の姿が見えた。
「おっ、翠葉ちゃん写真撮る気満々?」
 右から腕を絡めてきたのは優太。左からは朝陽が絡んでくる。
「でも、俺たちがエールを送ってる間は彼女もフロアに下りてなくちゃいけないよね? どうやって写すつもりなのかな? もしや録画モードにして下りてくるとか?」
 朝陽に言われるまですっかり忘れていたが、おそらく翠も忘れている口だろう。
 あとで「ツカサ、ひどいっ。本当は撮らせるつもりなんてなかったんでしょうっ!?」と詰め寄られても仕方がない気がする。
 そんなつもりはただの一ミリもなかったわけだけど……。
 正直に「自分も忘れていた」と話すのが一番か……?
 ただ、普段こんなミスをしないだけに、俺が言ったところで信じてもらえるかどうかは怪しい限りだ。
 そんなことを考えていると、凄まじい連写音が降ってきた。
 突如聞こえてきた音に周囲の連中が振り返る。と、階上で翠がカメラを構え固まっていた。そして、俺と目が合った瞬間にしゃがみこむ。
「あれは自分で撮る気満々。つまり、フロアへ下りてこなくちゃいけないことはすっかり忘れてる口だね」
 朝陽はおかしそうにクスクスと笑い、未だ観覧席を眺めている優太は、
「翠葉ちゃん、だいぶ人付き合い広がったよね? 赤組の団員とも男女学年問わず話せてるみたいだし……。あ、今海斗から入れ知恵されて気づいたっぽいよ? さて、どうするのかね」
 言い訳を考えあぐねている俺とは裏腹に、優太と朝陽は穏やかな表情で団員を整列させ始めた。

 優太の言うとおり、翠は目に見えて交友関係が広がっていると思う。
 そして、翠の交友関係が広がると共に、俺の人間関係にも変化があった。
 生徒会メンバーであっても必要最低限の会話しかしてこなかった俺が、今では必要事項プラスアルファ程度には話すようになっている。ほかにも、翠が絡まなければ会話すらしなかった人間たちが何人もいる。
 人に関わると、連鎖反応のようにあちこちで化学反応が起きるらしい。でも、それもあと数ヶ月のこと。
 大学へ行くようになれば、翠と出逢う前に戻るだろう。それでなんら問題があるわけではない。
 ……問題はないはずだが、何かが引っかかるのはどうしてか……。
 もとに戻るとは、「後退」を意味するのだろうか。それとも、フラットな状態になるだけなのか――。
 善し悪しを判断するのは難しいが、
「各組の健闘を祈って、エールを送るっ」
 この言葉を、何を思うことなく口にするような人間ではなくなったあたり、自分に起きた変化は悪いものではないのかもしれない。
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