光のもとでⅡ
「削除して」というからにはメールが返ってくることは望んでいないだろう。それでも私は何かを返したくて、唯兄の取り扱い説明書じみた内容を返信することにした。
 家に帰ったらメールを書こう。
 私はいつもとは趣の異なるメールを送ることに少し浮き足立っていた。

 桜林館に向かいクラスの列に並ぶ際、私はひとりのクラスメイトを意識していた。
 それは、去年の紅葉祭の前に二回だけ話したことがある香月さん。生徒会の会計をやりたいと言っていた香月さんだ。
 きつい目で見られるわけではないし、何があるわけでもない。ただ、きっかけがなくて話せない。そんな感じ。
 ほかのクラスメイトとは粗方言葉を交わすことができたけれど、まだ香月さんとだけは挨拶すらできていなかった。
 でも、もしかしたら今日をきっかけに話せるようになるかもしれない。
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