光のもとでⅡ

Side 翠葉 10話

 ふと気づくと、空が闇色に染まっていた。
 部屋の置時計に目をやれば、針は五時を差している。
「あの、私、そろそろ失礼します」
「もうそんな時間? あぁ、もう五時を回っていたんですね」
「翠葉は誰か迎えに来んの?」
「うん。連絡したら十分ちょっとで来てもらえると思う」
「なら、今電話すれば? こっから正門まで十分くらいだから」
「じゃ、失礼します……」
 携帯からツカサの番号を呼び出しかける。と、一コールで通話がつながった。
「ツカサ……?」
『終わった?』
「うん。今から正門へ向かうから、迎えに来てもらってもいいかな?」
『了解。今、芸大近くのカフェにいるから、五分とかからず行けると思う』
「あ……私が正門へ向かうのに十分くらいかかるかも」
『わかった。五分経ったら出る。正門に着いたら連絡して』
「はい」
 電話を切ると、先生と倉敷くんが同時に席を立った。
「僕は柊ちゃんの様子を見に行くので、慧くん、御園生さんを正門まで送ってあげてくれる?」
「頼まれた」
「えっ!? あの、ひとりで大丈夫ですっ」
「じゃ、この建物出たら右左どっちに行くのが正解?」
 倉敷くんに尋ねられ、しばし考える。
 来た道を戻るなら――
「右?」
「ブッブー。おとなしく送られろ」
「お手数をおかけします……」
 そんなやり取りを見ていた先生がクスクスと笑う。
「やっぱり年が近いと仲良くなるのも早いですね。慧くんを呼んで正解でした。御園生さん、再来週のレッスンでお会いしましょう」
「よろしくお願いします。今日はありがとうございました」
 お辞儀をして先生を見送ると、倉敷くんが私の背後に回り、「じゃ、行くか」と車椅子を押し始めた。
「あっ、自分で動かせるよっ?」
「おとなしく押されてろ」
「でもっ」
「手も怪我してんだろ? 押してくれる人がいるなら頼んじゃえよ」
「……ありがとう」
「おう。……その手、どのくらいで治んの?」
「一週間くらい」
「本当、気をつけろよ?」
「はい……」
 会話が途切れると少し焦る。
 緊張を要す相手ではないとわかっていても、どこか気まずい気がしてしまうのだ。
 互いに歩いているのならまだしも、今は車椅子に座っているだけだからなおさらに……。
 ツカサと一緒のときは無言でも困らないのにな……。
 何が違うのか、と考えてもそれらしい答えは見つからない。
 ただ、ツカサのことを考えれば考えるほどに強く感じる想いがひとつ。
 早く、会いたい――。
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