光のもとでⅡ
 ディスプレイに表示されたのは、



件名: メール開通!

本文: 日曜日のライブ、絶対に来いよ!
    春夏秋冬も楽しみにしてるからさ!
    それから右手、くれぐれもお大事に。
    もう怪我すんなよ?

    慧


 さすがにこれは想定外。
「へぇ……連絡先の交換までしてきてたんだ?」
「うん。悪い人じゃないと思ったから」
 他意を含まない返事にだって空々しい返事しかできない。
「……だめ、だった?」
「別にいいんじゃない?」
 そうは返したものの、俺の態度は正反対そのもの。
 冷たい視線を向けることしかできそうになく、顔を背けてしまったほどだ。
「もぉ……どうしたら機嫌なおしてくれる?」
 翠に視線を戻しながら、ふと先ほどの出来事を思い出す。
「今日、ほかにも何かあったんじゃない? 俺に報告することは?」
 翠は「え?」と口を開け、それまでのことを思い返すように視線を宙にめぐらす。しかし、思い当たることがないのか、しだいにうんうんと唸り始める始末。
 ……翠にとっては「思い当たること」にすら該当しないのだろうか。
 悔しい思いを抱きつつ、翠の額に手を伸ばした。すると、「あ――」と言ったふうでしっかりと視線を合わせてくる。
「秋斗さんの手っ!? でもっ、熱を心配されて額に触れただけよ?」
「それ、抱きしめられたわけでもキスされたわけでもないって言いたいの?」
 翠はコクコクと頷く。
 あぁ、面白くない……。実に面白くない。
 いっそのこと、キスされるか抱きしめられればよかったのに。
 そしたら、有無を言わさず翠を抱けたのに。
「俺は翠が知らない男たちに囲まれているだけでも嫉妬するし、俺以外の男が翠に触れることだってよくは思わない」
「……ごめんなさい。でも、突然でよけられなかったんだもの……」
 そんなのわかってるけど、それじゃ、
「急に抱きしめられてもキスされても同じ言い訳を口にしそう」
「うう、ごめんなさい……。以後、これまで以上に気をつけます。願わくば許してほしいのだけど、どうしたら許してくれる……?」
 小動物のようなそれが見上げてくる。
「……キス、してくれたら?」
「えっ――」
 翠は一気に頬を赤く染めた。
 慣れようとしている割に耐性がないというかなんというか……。
 付き合って七ヶ月。そろそろ翠からキスしてくれてもいい気がするけど、これは無理か……?
 しかし、案じた様子は見せずに笑みを深める。と、翠は口を真一文字に引き結び、
「これで我慢してっ」
 さっき同様、すごい勢いをつけて抱きつかれた。
 背中に回された手にぎゅっとしがみつかれ、その必死すぎる様に笑いが起こる。
 許しを請っているくせに「我慢して」とはどういうことか。
 俺は我慢できず、笑いに上半身を震わす。と、胸元の翠が俺を見上げた。
 真っ赤な顔に涙まで浮かべて、
「意地悪……」
「翠が悪い」
 もっと責めてもよかったけど、あまりにも愛しい表情に我を忘れ、俺は再び口付けていた。
 翠、好きだ……。
 なかなか口にできないけど、いつも想ってる――
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