光のもとでⅡ
 あっという間にトリの慧くん。
 慧くんがステージに出てくると、会場のそこかしこから声がかかった。
 それらに対し、慧くんは慣れた調子でMCを始める。
 近況報告から曲の紹介、さらには次のライブ予定などテンポ良く話すと、マイクの電源を落としピアノの前に座った。
 慧くんはピアノ鍵盤を前に目を瞑る。
「ピアノさんにこんにちは」――
 きっと普段の練習のときもレッスンでも、コンクールでもライブでもこの儀式をしないことはないのだろう。
 その姿に心が和む。
 一週間前のコンサートでは、とてもダイナミックな演奏を聴かせてくれた。そして応接室では、聴いているこちらが楽しくなるような、わくわくしてくるような演奏を聴かせてくれた。
 そして今日の演奏を聴いて思う。
 呑み込まれそう、と――
 私、慧くんのピアノ好きだな……。
 表現とか技術とかそういうことではなくて、音が好きだ。
 間宮さんの演奏は、技術や表現力に惹かれた。慧くんの技術や表現力にも憧れる。けれど、もっと根本的なところ――「音」が好き。
 芯があってぶれない音。
 心に真っ直ぐ飛び込んでくる音に心が囚われる。
 こんな音、どうしたら奏でられるのか。
 そんなことを考えているうちに四曲すべてが終わってしまった。
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