光のもとでⅡ
もうひとつのクリスマス

Side 慧 01話

 十二月初旬、翠葉のレッスン帰りの弓弦を直撃して得た情報。「ツカサ」という人物は兄じゃない――
 なんでも、初めてホームレッスンへ行った日は、翠葉のほかに四人の男が待ち受けていたという。
「いやー、イケメンが並ぶとすごい迫力なんだけど、慧くん知ってた?」
 弓弦はおどけた調子で話し出す。
「その四人と翠葉の関係は?」
「……まるで尋問みたいだね?」
 面白そうに笑う弓弦を問いただすと、
「はいはい、僕にわかる範囲で教えるよ」
 弓弦は両手をあげ降参ポーズをとると、四人の男について話し始めた。
「まずは御園生さんのお兄さん。僕の記憶だとふたり兄妹だったんだけど、どうやらお兄さんがふたりいるみたい。背の高いインテリふうの青年がソウジュくんで、そこらのアイドルより格好いい、ちょっと華奢な子がイゼリくん。ふたりとも、タイプの違うイケメンさんだったよ」
 その情報に俺は首を傾げる。だって、
「兄貴って、『ツカサ』って名前じゃねーの?」
「あれ? 慧くんは司くんを知ってるの?」
「いや、知ってるわけじゃない。ただ、学祭の帰り、翠葉が迎えに呼んでいたのが『ツカサ』って名前だったから。で、正門まで送ってったら藤宮ってイケメンと、その部下っていう兄貴がいたからさ。てっきり兄貴の名前がツカサなのかと思ってた」
「ははぁ、なるほど……。たぶん、正門にいたお兄さんはイゼリくんだね。でも、なんで司くんに連絡したのにそのふたりが来てたんだろう?」
 弓弦は首を傾げながら、
「御園生さんのお兄さんはソウジュくんとイゼリくん。あとのふたりは、先日ライブ帰りに迎えに来ていた藤宮さんと、藤宮さんの従弟である司くん。だから、司くんは御園生さんの血縁者じゃないよ」
「へぇ~……」
 つまり、翠葉は家族じゃない人間を迎えに呼んでたってことか? でも、正門にいたのは兄貴とその上司。意味わかんねぇな。
 意味わかんねぇうえ、「ツカサ」ってやつが今まで以上に気になる羽目になった。
「け、慧くん……目が据わってるけど?」
 仏頂面した俺は、そのまま質問を続行する。
「ところで、なんでピアノのレッスンごときにそんなギャラリーがいたわけ?」
「僕も不思議に思ったんだけど、さすがにそこまで突っ込んで訊けなかったな。でも、最初の一時間でお兄さんと藤宮さんは退室したから、ちょっとレッスンの様子を見てみたかっただけじゃない?」
 お兄さんと藤宮さん……? 「ツカサ」って男は残ったってこと……?
「……ツカサって、翠葉の彼氏?」
「どうかなぁ……。御園生さんの先輩っていう説明は受けたけど、それ以上の関係性までは聞いてないし、本人たちも訊かれなければ言わないだろうし。でも、かなり親しいことは確かかな? レッスンへ行くと毎回居るし、レッスンのあとはふたりで勉強しているそうだから」
「はああああっ!? だって、家でレッスンしてるわけじゃないんだろっ?」
「うん、居住棟とは別棟にあるミュージックルームだね」
「そんなところでふたりきりっ!?」
 詰め寄る俺を弓弦はクスリと笑い、
「慧くん落ち着いて。確かにふたりきりだけど、まったく人目がないというわけではないから」
 どういう意味……?
 じっと弓弦を見ていると、弓弦は呆れた様子で話し始めた。
「ミュージックルームの入り口と部屋の中、両方に防犯カメラが設置されているし、部屋の入り口には警備員らしき人間がふたり配備されている」
「なんでそんな厳重なんだよ……あ、スタインウェイが置いてあるから?」
「僕も最初はそう思ったんだけど、先日の学祭にイゼリくんと藤宮さんが来ていたのなら、やっぱり護られているのは御園生さんなのかなぁ……。イゼリくんも藤宮さんも、藤宮警備の人間だからね」
「なんで? 城井アンティークってそれなりの会社ではあるけれど、孫娘がそんな厳重に護られるもん? あいつってそんなお嬢なの?」
「どうだろう? 込み入った事情はわからないけど、マンションでの警護体制は厳重だった。あれはピアノ目的の警護じゃないと思うよ」
 弓弦からもたらされた情報は、詳しく知りたい部分に限って明瞭ではない、実に中途半端な情報だった。

 その後、考えに考えた俺は、翠葉をうちのクリスマスパーティーに呼ぶことを思いつく。
 うちでは毎年クリスマスイブにクラッシック界の有名どころを集めたパーティーを開いているのだ。
 小さいころは何もわからずに参加していたけれど、物心がつくようになってからは社交辞令の数々が面倒になり、友達との予定を入れたりライブの予定を入れて外で過ごすようになっていた。
 でも、翠葉が来るなら話は別。諸手を挙げて参加しますとも……。
 もし、「ツカサ」という男が彼氏だった場合、端からイブには予定が入っているかもしれないし、予定が空いていたところでほかの男――つまり俺の誘いを断わる可能性は非常に高い。
 けど、祖父の誘いであったり、会場で生演奏が聴けるなんてオプションがついたなら、来てくれる確率は上がるんではなかろうか。
 そこからすると、じーちゃん経由で招待するのが一番都合がいいわけだけど……。
 俺はじーちゃんの書斎へ行き、過去五年分のクリスマスパーティーの参加者名簿に目を通すことにした。
 城井城井城井城井城井――
「あった!」
 城井春臣――おそらくこれが翠葉の祖父の名前だろう。
 記載されている住所は、白瀬川市森村三の五。
 すぐさま城井アンティークのサイトをチェックする。と、本店の住所がヒットした。
「うっし! 間違いなしっ」
 でも、出席名簿を見たところ、出席している年とそうでない年がある。
 今年来てもらうには――翠葉を連れてきてもらうにはどうしたらいいだろう。
「やっぱじーちゃんを頼るしかないかなぁ……」
 俺はすぐに出かける準備をしてじーちゃんの職場へ向かった。

 少し遠回りをして倉敷コーヒーへ寄り、じーちゃんの好きなスペシャルブレンドとチーズタルトをゲット。
 急いで大学へ向かい理事長室を尋ねると、書類から視線を上げたじーちゃんが目を丸くした。
「慧がここに来るとは珍しい……。いったいどういう風の吹き回しだい?」
 じーちゃんがそう言うのも無理はない。
 大学では極力身内との接触を避けているからだ。
 今日は下手に出よう、そうしよう……。
「単刀直入におうかがいします。城井アンティークの社長さん、今年のクリスマスパーティーに来ますかね?」
 ご機嫌をうかがうように尋ねると、
「城井さん……? 慧は小さいころに会ったことがある程度だろう?」
「えぇえぇ……そんな記憶は微塵もありませんが……」
「何か目当ての家具でもあるのかい?」
「いえ、どちらかというと、生身の人間が目的でして……」
 素直に答えると、いたく不思議そうな視線が返された。
「今年は出席するという返事が来ているが……」
「……実はですね。その人のお孫さん、来年うちを受験するかもしれないらしいんですよ。で、音楽に興味があるんだったら、うちのパーティーはそれなりに楽しめるんじゃないかなぁ、と思いまして……」
 ちらちらとじーちゃんの目を見ると、「ほぉ」と楽しげに目が細まった。
「慧の目当てはそのお孫さん――お嬢さん、かな?」
「ですです……こないだの学祭で弓弦に紹介されたんだけど、超絶かわいい子でさ」
「なんだ、すでに知り合いなら慧が自分で誘えばいいだろう?」
 痛いところをついてくださる……。
「えーとですね、何分まだ二回しか会ったことがないし、家のパーティーに呼ぶほど親交が深いわけでもなくてですね……。できればじーちゃんのお力を借りられたらと思いまして……」
 しどろもどろに答えると、じーちゃんはクスクスと笑いだした。
「それで私の好きなケーキとコーヒーかい?」
 コクコク頷いてそれらを差し出すと、じーちゃんはくしゃりと表情を崩して笑った。
「わかった。城井さんに連絡して、ぜひお孫さんといらしてもらえるよう話してみよう。その代わり、パーティーでは慧も一曲弾くように。それが条件だ」
「……了解っす」
 これで布石は完了。
 俺はドキドキしながらクリスマスイブを待ちわびたのだ。
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