光のもとでⅡ
「柊ちゃん、声のトーン落してね。それに、まだ受かってもいないんだから未来のお話はたいがいに」
 後ろから現れたのはシルバーフレームのメガネをかけた繊細そうな男の人だった。
「仙波先生、やなこと言わないでっ! 絶対現役合格するんだからっ!」
「はいはい。とりあえず、今すぐボリューム絞ってね」
 そう言うと、その先生はコーヒーを淹れて、レッスン室へ続く通路へと姿を消した。
「今の先生は仙波弓弦(せんばゆづる)先生、二十七歳。OLさんに一番人気の講師なの。こちらでCDの販売もしておりま~す!」
 カウンターに複数のCDが見やすくディスプレイされているところを見ると、ピアノ講師は副業で、本業はピアニストなのかもしれない。
 ジャケットで目を引いたのはタキシードでピアノに向かう姿。
 繊細で神経質そうな印象を受けるけれど、柊ちゃんとお話をしている様子からは物腰が穏やかで接しやすそうな印象だった。
「翠葉ちゃんも仙波先生みたいな人が好み?」
 好みかと言われると少し違う気がする。
 ツカサもどちらかと言うと、繊細な印象を受ける部類だけれど、物腰が穏やかというわけではないし、口を開けば割と容赦のない言葉がポンポンと出てくる。優しい人だけれど、優しさの種類が違うというか……人種が違うというか……うーん……。
「はっは~ん……さては、今好きな人を想像したでしょうっ?」
「えっ、あ……」
 図星をつかれて頬が熱を持つ。
「ふふっ、かわいい! ま、いいや。そういう楽しそうなお話はあとに取っておいて、まずはレッスンのことを決めちゃおうね!」
「はい」
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