光のもとでⅡ
 いつもならここで電話を切る。でも、もう少し話していたい。けれども話す内容がない。
 嘘……。話したいことはる。でも、その内容をなかなか口にできないだけ。
『今日、何かあった?』
「えっ、どうしてっ!? 何もないよっ」
『その慌てっぷり、絶対おかしいだろ。それに、何もなければ電話なんてしてこないんじゃない?』
 確かに、いつもと変わりない日を過ごしていたら、電話をかけようとは思わなかったかもしれない。
 今日は、離れているにもかかわらず、日がな一日ツカサのことを考えていた。でも、何かあったか、とそこをつつかれると苦しくもある。事実、何かあったわけではないのだから……。
『何があった? 秋兄が絡むこと?』
 こちらを探るような声音に、困ったな、と思う。
「……本当に、何もなかったの。ただ、私が個人的に気になることがあるだけ」
『気になることは?』
 ツカサのこと……。ツカサのことしかない。
 訊いてしまえば楽になるのかもしれない。でも、訊くに訊けないのだ。
 秋斗さんに「話してごらん」と言われてすべてを話せなかったように、ツカサに対しても、全部を話すことはできない。
 ツカサが「不安」を打ち明けてくれたら話せる。でも、きっと話してくれることはないだろう。
 それとも、インターハイ最終日のあの日――。
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