光のもとでⅡ
「飛翔は相変わらずだなぁ……翠葉、気にしなくていいよ」
 海斗のフォローは虚しく、翠は猛省の勢いで頭を下げる。
「あのっ、撮影に時間かけてしまってすみませんでした。それから、会計職のあれこれも、自分のわがまま通してすみませんでした」
 下げたときと同様の勢いで頭を上げようものならどうしてやろうかと思っていたが、翠はなかなか頭を上げない。見かねた優太が翠の肩を軽く叩く。
「翠葉ちゃん、俺は助かってるよ? 会計の仕事が分担されていたら、俺は今ほど組の練習に取り組めなかったからね」
 翠はその言葉に姿勢を直し一歩下がったかと思うと、
「あの、私飛翔くんにお話があるので先に失礼しますっ」
 くるりと身体の向きを変えて走り出した。
 走るな――そうは思いつつも、きっと息が上がるほどの距離は走らないだろう。
 そんな思いで翠の背を見送ると、
「翠葉の律儀者おおおっっっ。飛翔なんて放っておけばいいのにっ。なんだか司がふたりいるみたいで超迷惑っ」
 嵐が文字通り地団太を踏んで見せる。
「でも、飛翔ってそんな悪いやつじゃないですよ」
「海斗、飛翔が私の従弟だって忘れてない? 飛翔がどんなやつかくらい海斗よりわかってるわよっ。ことあるごとに翠葉に噛み付いてっ。おまえは猛犬か!? って感じじゃない」
 海斗のフォローはとことん報われないらしい。
「ちょっと司っ、あと追いなさいよっ。また飛翔に冷たいこと言われて翠葉が落ち込むかもしれないでしょっ!?」
 それはどうだろう……。翠が飛翔を追いかけたとして、謝罪することはひとつふたつといったところ。そして、飛翔は冷たく突き放したような物言いはするが、謝罪をまったく受け付けない人間でもない。
 俺が行かずともさして問題はないように思う。が、
「さっさと行くっ」
 俺は嵐に急き立てられ体育館を出ることになった。
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