光のもとでⅡ
 司先輩が声をかけると姿勢は直り、なんとか見られる状態にはなったものの、表情はガチガチ。たかが写真撮影だろ、と思わなくもない。
 カメラマンが一度シャッターを押したが二枚目を撮ることはなかった。すなわち、撮る意味がないのだろう。
「寄り添ってる感じがものすごくいいんだけど、翠葉ちゃんもっと笑えないかな? あ、司は無愛想でもかまわないよ」
 朝陽先輩が進行役を買って出たものの、
「どうしてツカサだけっ!? 私も笑いたくないですっ」
 御園生翠葉は抵抗を見せる。
「いやいやいや、お姫様にはかわいく笑っていただきませんと」
「サザナミくんの意地悪っ」
「えええええっ!? 俺? 俺だけっ!?」
「翠が笑わないと終わらないんだけど」
 もっともだ。司先輩は正しい。
 久しぶりに司先輩らしい一言を聞いて、どこか安堵した。
 御園生翠葉を見ていると余計なことを考えてばかりだ。
 こんな撮影は早く終わらせてほしい。
 そんなことを思っていると、
「自分は笑わなくていいからってひどいっ」
 御園生翠葉は今まで見せたことのないむくれ顔を司先輩に向けていた。
 いつもとは違う、気の強そうな目が印象的で、しばし目を引いた。
 笑顔ではないし惹かれる要素などひとつも含まない表情。なのに、「かわいい」という言葉が頭に浮かぶ。
 たった四文字の言葉に動揺した俺は、咄嗟に視線を逸らした。
 ――かわいい? 嘘だろ……? あの女がかわいく見えるなんてあり得ない。イラつくの間違いだろっ!?
< 893 / 1,333 >

この作品をシェア

pagetop