光のもとでⅡ
「泣かれるとか、マジやめてほしーんだけど」
「ごめんっ、すぐ泣きやむ」
 御園生翠葉は手の甲で涙を拭うと、まだ涙が滲んだ目で、
「あのね、私、あともう一度だけわがままを言うから」
 は……?
「来年の紅葉祭、中間考査までの作業はみんなでやるけれど、それ以降のリトルバンクに関する作業全般は私に任せてください」
 何言ってんの、この人……。
「はぁっ!? あんた、やっぱバカだろ? 紫苑祭と紅葉祭じゃ扱う金額の規模が違う。それわかって――」
「うん、わかってる。でも、去年もそうだったの。それに、私はそういう形じゃないと生徒会に携われないから」
 つい今しがた涙を見せた女はにこりときれいすぎる笑みを見せた。
「先日ツカサが話したとおり、去年生徒会規約に準規約ができて、私が学校外で会計の仕事をすることが認められているの。だから、先に言っておくね。会計の総元締めやらせてもらいます」
 言い終わると、御園生翠葉は俺の反応を待たずに校舎へ向かって歩き出した。
 ちょっと待て、言い逃げとかマジやめろ。
 呆然と後姿を見送っていると、背後に人の気配がして振り返った。
 そこには司先輩が立っていて……。
「あの人なんなんですか」
 先輩はめったに見せない笑みを見せた。今はおかしそうに口端を上げている。
「去年言っただろ? あの紅葉祭の総元締めは翠だって」
「聞きました。聞きましたけど……」
 にわかに信じがたい、というのが本音だ。
「最初の山場は会計三人で作業にあたった。そのあとは、収支報告から追加申請、リトルバンクに関するものの一切を翠が捌いていた」
「まさかっ!?」
 いくらなんでもそれは――司先輩が、というならまだ頷けるけど……。
「翠の技量を知りたければ実際に仕事を見ればいい」
 司先輩は涼しい顔で御園生翠葉のあとを追って歩き出す。
「……くっそ……なんだよあの女。紅葉祭でそこまでのことができるなら、今回の仕事なんてできて当然だろっ!?」
 悔しさと腹立たしさとなんだかわけのわからない感情に支配され、俺は頭を掻きながらその場に座り込んだ。
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