ルージュのキスは恋の始まり
 このセリフ、右手を怪我してから何度聞いただろうか。

 100回?200回?

 いや、それよりも多いと思う。

 玲王は私には一切家事をやらせない。

 お風呂に入る時も、傷口が濡れないよう防水テープを貼られる。

 毎日、玲王は私の手の具合をチェックする。

 私の傷は幸いにも神経を傷つけてはいなかった。

 診て頂いたお医者様は玲王の友人らしくてすごく優秀な先生で、すぐに処置してくれた。

 抜糸もしたというのにこの過保護ぶりは何なのだろう。

 食事だって箸を使わなくてもいいよう工夫してくれる。

「不服そうな顔だな。抜糸したからって安心するなよ。無理すると傷開くからな」

「でも、動かさないと逆に手に良くないんじゃないかな?」

「だからって包丁握るな、馬鹿」

 玲王がいつものように私の頭を小突く。
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