君だけのパティスリー
その笑顔からすっと視線を逸らして、お返しを何も準備していなかった事を心の中で悔やむ。
今日が何の日であるかもすっかり忘れて、「ちょっと公園まで来て」という軽い呼び出しに、軽い気持ちで応じてしまった数分前の自分が恨めしい。


「なーちゃん……?」


突然視線を逸らされたことが気になったのか、少年は顔を覗き込むようにして不安げな声で問いかける。

その声に何でもないと答えようと顔を上げかけて、少女はハッとしてポケットに手を触れた。
布の上から伝わってくる確かな感触に、ポケットに手を突っ込むと、中にあったものをグーにした手の平に包んで突き出す。

それがなんであるかは、確認しなくてもわかっている。
手作りのケーキには申し訳ないようなお返しだけれど、どうしても今すぐお返しがしたかったから、今あげられる精一杯を手の平に包んで突き出す。

一瞬きょとんとした少年だが、少しして意図を汲んでくれたようで、そっと両手をお皿のようにして差し出した。

五本指の手袋がはめられた両手の上に、少女は握っていた拳を開いて中のものをそっと落とす。
コロンと手の平に転がったのは、水玉の包装紙に包まれた大きな飴玉。


「わたしの好きな大玉あめ。とくべつに、一つあげる。……メリークリスマス、ふーくん」
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