幼馴染みはイジワル課長
歩未ちゃんのその言葉に、部長は首を横に振って答えた。





「実は前々から密かに考えてた事なんだ。俺みたいなやつが、会社でみんなの上に立つ立場なんておかしいんだよ」


部長はそう言うと、力ない声でハハハと笑った。





「でも…今の仕事辞めてどうするの?今の歳で仕事探すなんて…」

「なんとかなるさ。俺もお前みたいに時間をかけてやりたい事を見つけて行くよ」


部長の決意もかたいようだ。それを察した歩未ちゃんは、部長に返す言葉が見つからないようだった。





「少し話はそれるが、ちゃんと離婚が成立するまで俺達は会わないでいる方がいいと思う…」


部長は腕を組むと、そう言って難しい顔をした。驚いた私達は一斉に部長に注目する。





「もっと前からこうするべきだったんだよ…自分自身がちゃんとしてから歩未と交際した方がいい」

「そうだね…お互いの為にも…」


納得した様子の歩未ちゃんの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

部長が歩未ちゃんの頭を撫でると、その涙は目からこぼれ落ちた…






「う…」


そんな2人を見て、たまらず私も涙が溢れ出る。




「なんでお前も泣いてんだよ」

「だってぇ」


2人が幸せに頑張って向かってるところ見てると、なんか泣けてきちゃうよ。

もらい泣きする私の頭を、碧はガシガシと撫でた。

私はおしぼりで涙を拭いたあと、鼻をすすって気を落ち着かせた後飲みかけのビールを飲んだ。






「桜花ちゃん、課長。本当にご迷惑かけました」


私と碧に深々と頭を下げる歩未ちゃん。





「後輩のお前達には申し訳ないことばかりしてしまってすまなかった。俺達は俺達なりに頑張るよ」


部長と歩未ちゃんの顔には、切ないながらも笑顔が見えた。

私と碧はそんな2人に「頑張って下さい」と声をかけた。










「今日はびっくりの連続だったなぁ」


帰り道。部長と歩未ちゃんと別れた私達は、最寄り駅までタクシーで帰り駅から碧の自宅までゆっくり歩きながら話していた。





「まあな…でもあれで良かったんじゃないか。2人がうまくやれる道を見つけたってところだな」

「そうだね」


2人で肩を並べて歩きながら、碧にピタリとくっつく私は周りから見たらすごい違和感を感じると思う…

けれど酔っ払ってる私は、周囲からの目なんて考えてもいなかった。





「でも歩未ちゃんも部長も辞めちゃうなんて寂しいな~4人で仲良しだったのに」

「仲良しって…会社は学校じゃないから」

「そういう意味じゃなくて!」


会社は仕事をする場所だけど…仲良くしていた人が辞めるのはやっぱり寂しいよ。

どんなに仕事でミスしても、仲良しの子がいれば励ましてくれるから頑張れたのにな…





「ま、山城もいなくなることだし…お前ももっとしっかりしろよ」

「わ、わかってるよ」


ぶぅと口をふくらませると、碧はクスッと笑って私の頬をつねった。

そうこうしてるうちに碧のマンションに到着した私達は、エレベーターに乗り碧の部屋の階へ向かう。






「歩未ちゃんと部長…離婚するまで会わないってことは、さっきはあのまま帰ったのかな」


居酒屋で別れた時は、2人共一緒に帰っていったけど…






「あの様子だと…今も一緒にいるんじゃないか?色々言ってても男と女なんだし、今頃いちゃついてるよ」

「うそ?そうなの?」


私はてっきりあの後すぐに別れたのかと思ってたよ…






「部長が会わないようにしようって言ったのは、今までみたいには会わないって事だと思うよ。まあ、今日に限っては酒も入ってるし明日からにしようみたいなノリでホテルに直行だろうな」

「エロ親父」
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