危険なお見合い
いなくなった優理香
翌日、優理香は凌路のいる施設を出て、とある田舎を歩いていた。


「ちょうどいい場所ね。
本で稼いだお金もあるし、こういう田舎で普通に働いて過ごすっていうのもいい経験になりそうだわ。」


その日のうちに、優理香は地元の不動産やで住まいを決め、職安を訪ねて行ったところ、あるやりとりに遭遇してしまった。


「新しいホテルや銀行を紹介するのもいいが、地元の産業をもっともりあげるように人材を集めてくれないか?
後継者不足と若者の都会流出で町はさびれていってしまう。

自然がいくら誇れても土産物も用意できないところにしたくないんだ!」


「そうはいってもねぇ・・・まずは町にお金を落としてもらわないとね・・・。」


「平行に仕事すりゃいいだろうが!
中には伝統工芸に興味ある若者だっているかもしれないだろ?」


「あの・・・伝統工芸を教えてもらえるんですか?」


「えっ?あんた・・・誰?」


「私はちょっと事情があって、この町にきてしまって仕事を探していて・・・。
それに、家もまだ決まってなくて。」


「俺んとこに来いよ!」


「えっ・・・!!そ、そんな。」


「あ・・・悪い、勘違いさせちまったな。
俺ん家は地主で地元産業を手掛けている若者が住んでいるアパート経営してるんだ。
だから、あんたもうちのアパートに来ないかと思ってさ。」


「アパート・・・。
そ、そうだったんですか。
私、入居してもいいんですか?」


「おお、ただし、明日から少し若い職人たちの仕事をみてもらって、あんたに合う仕事を選んでもらうけど、いいかな。」


「は、はい!」


「じゃ、うちの事務所にきて履歴書書いてくれるかな。」


優理香は履歴書を嘘偽りなく、素直に書いた。
ぶっきらぼうだが誠実な男をだましたくなかったからである。


「あ、あの・・・まだ、あなたのお名前をきいてなかったんですけど。」


「あ、ああそうだったな。俺は菅谷遼二。
ここの大家と、地元産業の宣伝役であり、販売部長だ。

ところで・・・あんた・・・もしかして、旅をしながら写真とか文章で有名になってた名郷優理香さんじゃないのかい?」


「そうです。やっぱりバレますよね。」


「や、やっぱり・・・。いや、でもどうして・・・こんな田舎に?
ここはべつに温泉が売りってわけでもないのに。」


「そ、それは・・・ごめんなさい、ご迷惑ですよね。
すぐに出て行きますから。」


「待てよ!わけがあるんだろ?
まだ俺は迷惑をかけられたと思ってないんだけどな。
逆に有名な美人とお近づきになれてラッキーだと思ってるくらいさ。」
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