いつかあなたに還るまで


「し、ほ…」

切れ切れに紡いだ言葉は彼女に届いていたのかどうか。
瞠目したまま自分を凝視する隼人からふっと視線を逸らすと、志保は鞄から紙幣を取り出しテーブルに置いた。
そしてゆっくりと立ち上がる。



「志保っ!!!!」



咄嗟にその手を掴んでいた。
引き止める権利も資格もないとわかっている。
こんなことをして一体何になるというのか。
それでも、己の全細胞がこの手を離したくないと訴えていた。


「…隼人さん。……いえ、霧島さん」


だがはっきりと引かれた境界線に、続けようとした言葉を奪われる。
振り返った志保は笑っていた。

…今にも泣きそうな顔で。
それでも気丈に。

「我儘ばかりで本当にごめんなさい。恨んでもらっても構いません。…でも考えを変えるきっかけをくれたあなたには感謝しています。短い間でしたけど、ありがとうございました。どうかお元気で。…さようなら」

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