いつかあなたに還るまで
暴かれる嘘



「あ、これかぁわいい~! でもこっちもいいわよね。あー、早く性別がわかればいいのに。いっそのこと両方買っちゃう? …って、隼人、聞いてるっ?!」

ガクッと腕を引かれてパチンと意識が弾ける。何が起こったかわからずに視線を下げれば、腕に纏わり付くようにして密着していた里香子が不満げにこちらを睨み付けていた。

「ちょっと! 愛する女と一緒にいるのに上の空ってどういうこと?!」

ことさら強調されたこれみよがしな言葉に、ざらりと喉の奥に不快感が走る。
だが一切の反論ができないとわかっている女は不敵な笑みを浮かべるだけ。

「…まぁいいわ。ここでキスしてくれたら許してあげる」
「……は?」
「は? じゃないわよ。ここでキスしてって言ってるの。ほら」

聞き間違いかと耳を疑ったが、言った張本人はご満悦そうにさらに体を密着させて目を閉じた。その姿に言いようのない嫌悪感が湧き上がる。

ここは往来の激しい場所だ。人前でキスをするなど論外だが、見せしめのように敢えてそう仕向けようとする女のしたたかさに、心底吐き気がした。

この場を収めたいならさっとしてしまえばいいだけのこと。
たとえ心が伴わなくとも、里香子を黙らせるにはそれしかないのだから。
昔の自分に戻って人形のように求められるままに演じればいいだけ。


わかってはいるが____

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