いつかあなたに還るまで

五年前、単身日本を離れた志保はアメリカへと渡っていた。

祖父の庇護から完全に離れた生活が理想だったが、現実問題としてやはりそれは難しかった。自分が勝手をしているという自覚があることに加え、大事なことを話していないという罪悪感もあり、何度も何度も話し合った末、祖父が信頼を寄せている知人が管理するアパートで一人暮らしをさせてもらえることとなった。アパートと言ってもセキュリティはしっかりしていて、治安の面でも安心できるというのが大前提だったのだが。

手続きを済ませて現地の大学へと通いながら、一方で人生初のアルバイトにも挑戦した。休日には紹介してもらった児童養護施設へと出向き、積極的にボランティアにも勤しんだ。
大学を卒業後はそのまま正式なスタッフとして採用され、社会人としての一歩も踏み出した。

守られ、恵まれた環境ではあるものの、志保が西園寺家の人間であることを知っているのは極々一部の人間だけ。ほとんどがただの日本人として志保と過ごし、日本では決して経験できなかった生活に、毎日が驚きと感動の連続だった。

もちろん大変なこともあったけれど、それが逆に自分が今生きているのだという見えない力を湧き上がらせて、ホームシックにかかる暇さえないほど充実した日々を送ることが出来た。


「シホ、またいつか会える?」
「もちろん! また必ず会いに来るよ」
「じゃあぼく、それまでにツルが上手に折れるように練習しておくね!」
「うん。私ももっと難しいのができるようにたくさん勉強するよ!」

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