音楽が聴こえる
いつもなら、面倒臭くなって電源をオフにしてしまうだろうに、何故かそんな気にもなれなかった。

……もしかしたら本当は、彼らの音楽の進化に魅せられているのかもしれないけど。

肌でそれを感じたいのに、腰抜けのあたしは自分の感情と折り合いが着かない。


「見に来て」と誘う斉賀の言葉と「聴いてやれよ」と苦笑した悟の眼差しの所為にして、見回りでもないのに『ブルーバード』の扉を開けた。


その瞬間。

大音量と共に煙草の煙が、あたしへ襲い掛かる。

入口前でチケットをもぎる役は、この間馬鹿力であたしの腕を掴んだ悠太のようだ。

彼はあたしの顔を見るなり、猫背加減の背筋を伸ばす。

「券無くて、大丈夫っす! どうぞっ」

この間と同じ教師然としたあたしなのに、明らかに態度が違う。

悟に何を言われたのか、それともこの間ひとりで熱くなったことを恥じているのか、相変らずあたしとは目を合わそうとしない。

「どーも」

悠太の前を通り抜けようとしたものの、ふ、といけない考えがあたしの頭をよぎる。


「ねぇ」

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